最近読んだコミックのなかで面白かったもの10作 その2
前回と同じく、レビューを書くのが苦手なのでタイトルだけ列挙します。
最近出たもので巻数が若いものがメインです。
①平尾アウリ『推しが武道館いってくれたら死ぬ 1』
②かふん『しんそつ七不思議 2』
③菅森コウ『駄能力JK成毛川さん』
④五十嵐大介『ディザインズ 1』
⑤ 鬼龍駿河『乙女ループ・乙』
⑥鬼頭莫宏『双子の帝国 1』
⑦ねこぐち『天野めぐみはスキだらけ! 1』
⑧ながべ『とつくにの少女 1』
⑨伊図透『銃座のウルナ 1』
⑩須河篤志『俺の姫靴を履いてくれ 2』
俺の姫靴を履いてくれ 2<俺の姫靴を履いてくれ> (コミックフラッパー)
- 作者: 須河篤志
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / メディアファクトリー
- 発売日: 2016/02/23
- メディア: Kindle版
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以上です。
よろしければ何かの参考にしてください。
福袋を買った話
備忘録を兼ねて投稿します。
タイトルのまんまなんですが福袋を買ってきました。大阪の某服屋で買った5万円のやつです。福袋といえば在庫処分などと言われますが、果たして今野ぽたの買った福袋に福は詰まっているのでしょうか……
①STUTTERHEIMのレインコート(定価34000円)
福袋がやけに重くてワクワクしたのですが、ワクワクの正体はこれでした。
福袋に4万円のレインコート入ってたけど、人生どれだけ成功しても4万円のレインコート買わないだろうし良かったんだと思う
— 今野ポタ (@conpotachan_km) 2016, 1月 2
気持ち的にはこんな感じです。
いや、普通に嬉しいんですけど、レインコートて。
②BRU NA BOINNEのフラワーモンスターパンツ(定価35000円)
イロモノっぽいんですが個人的に一番嬉しかったもの。
刺繍が凝ってます。
③CARVENのシャツ(定価33000円)
切り返しが凝ってて、サイズ感もよかったのですが如何せん趣味じゃなくて困った……。モノとしては当たりですが……。
④CARVENのカーディガン(定価36000円)
シンプルなカーディガンってあまり買わないので助かります。この値段のカーディガンは普段買えないから福袋だからこそ手に入ったものだと思います。
⑤RYUの帽子(定価10000円)
この帽子は買おうかずっと迷ってて結局買えなかったものなのでこうして再会できたのが嬉しいです。
⑥クレプスキュールのニットTシャツ(定価14000円)
ニットのブランドなので着心地はとても良かったです。でも薄手のコットンニットだし、ゆったりしたものなので今の季節には不向きです。こういうボーダーの服は定番で持ってて困らないですね。
⑦EGOBAAG JAPANのバッグ(定価7500円)
これが7500円するのか~って思いました。
持ち手が短いので絶妙に使いにくい。
ここから先は何といっていいのか分からないものたちです。
⑧布切れ?(価格不明)
自動車がプリントされた布切れです。
⑨ブレスレット?(価格不明)
縁日でこんなの売ってたな~って懐かしい気持ちになっちゃいました。
色も褪せてるし、マジで何なんだこれ……。
(まとめ)
値段の分かったものだけ合算すると169500円でした。福袋が50000円だったことを考えると、相当お得なのではないでしょうか。気に入ったカーディガンとパンツと帽子だけでも50000円は軽く超えるので個人的には大満足でした。
計算したら5万円の福袋の中に19万円分くらいの服が入ってました
— 今野ポタ (@conpotachan_km) 2016, 1月 2
昼間の自分、めっちゃ適当に計算してましたね。
以上です。
最近読んだコミックのなかで面白かったもの10作
レビューを書くの苦手だと気づいたので タイトルだけ挙げていきます。
比較的最近刊行されたものメインです。
からかい上手の高木さん 3 (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)
- 作者: 山本崇一朗
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/12/11
- メディア: コミック
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このマンガがすごい! comics 雪ノ女 (Konomanga ga Sugoi!COMICS)
- 作者: 相澤亮
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2015/12/10
- メディア: 単行本
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背すじをピン!と〜鹿高競技ダンス部へようこそ〜 1 (ジャンプコミックス)
- 作者: 横田卓馬
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2015/11/04
- メディア: コミック
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以上です。
女を殴る小説ばかり投稿するのも決まりが悪いので
最近読んだマンガとか本とか映画のこと書きます
・あfろ『ゆるキャン△(1)』(芳文社)
ゆるキャン△ (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
- 作者: あfろ
- 出版社/メーカー: 芳文社
- 発売日: 2015/11/12
- メディア: コミック
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最近買った漫画の中では一番面白かった。簡単にいえばキャンプ版『ヤマノススメ』なのですが、夜に野外で食べるカップラーメンの味などは自分自身にも思い出深い記憶もあるのでそれも相まって良かった。
・月子『最果てにサーカス(1)』(小学館)
中原中也と小林秀雄、そして二人と関係をもった長谷川泰子という女性の三人を描いた漫画なのだけど、長谷川泰子という女性がまあすごい。
その頃彼(引用者注:小林秀雄)は大学生だつたが、或る女性と同棲してゐた。彼女は、丁度子供が電話ごつこをして遊ぶやうに、自分の意識の紐の片端を小林に持たせて、それをうつかり彼が手離すと錯乱するといふ面倒な心理的な病気を持つてゐた。意識といつても、日常実に瑣細な、例へば今自分の着物の裾が畳の何番目の目の上にあるかとか、小林が繰る雨戸の音が彼女が頭の中で勝手に数へるどの数に当るかといふやうなことであつた。その数を、彼女の突然の質問に応じて、彼は咄嗟に答へなければならない。それは傍で聞いてゐて、殆んど神業であつた。否、神といって冒涜なら、それは鬼気を帯びた会話であつた。(河上徹太郎『私の詩と真実』)
泰子は上記引用文にもある「質問病」(しかも自分の思い通りの返事がないと錯乱する)に加えて、小林を線路に突き飛ばそうとしたりと……まあそんな日々が続いて神経が参った小林は泰子のもとを逃げ出すのだけど……『最果てにサーカス』ではどこまで描かれるのだろう。
・有栖川有栖『双頭の悪魔』
高校生の時に『月光ゲーム』『孤島パズル』を読んで以来このシリーズからだいぶ離れてたのだけど、ひょんなことから読むことになった。ミステリの感想は難しいので小説の本筋から離れた話をすると、探偵・江神二郎って京都の西陣に下宿してるんだなあ……。京大に通ってる設定なのに結構遠くね?って思ったけど、割とこの辺は行動範囲なので親近感が湧いた。西陣周辺は住んでて飽きないと思うし、江神さんが留年してるのもクッソわかる。
・西村賢太『痴者の食卓』『寒灯・腐泥の果実』(新潮社)
女に怒りを覚えたら西村賢太を読むといい。「貫太と秋恵シリーズ」は最早お約束のように「貧乏なりに幸せに暮らしてたけどひょんなことで大喧嘩で貫太が秋恵を罵り倒す」という内容が繰り返されるので、安心感がある。
女に怒りを覚えたら西村賢太を読むといいと言ったけれど、根本的に女性嫌悪の話ではないとは思う。むしろこれを読んでスカッとする僕のほうに問題があるのだろう。
・新庄耕『狭小邸宅』(集英社)
この作品に関してはTwitterにbotがあるので、それを見てピンときたら読もう。
一部抜粋すると。
「松尾 、未公開物件あるから 、サンチャの駅前でサンドイッチマンやれ 」
「おい、お前、今人生考えてたろ。何でこんなことしてんだろって思ってたろ、なぁ。なに人生考えてんだよ。てめぇ、人生考えてる暇あったら客みつけてこいよ」
「売るだけだ、売るだけでお前らは認められるんだ、こんなわけのわからねえ世の中でこんなにわかりやすいやり方で認められるなんて幸せじゃねえかよ。最高に幸せじゃねえかよ」
こんな感じの小説です。
「本書で説いて来たのは、日本近代の公的な世界の建設のかたわらに、公的世界のヒエラルヒーを避けて、自発的な繋がりで、別の日本、もう一つの日本、見えない日本をつくりあげて来た人がいたということである。その人たちは公的日本の側からは見えない人たちであったために勲功の対象になることはほとんどなかった」
僕たちが何気なく共有している明治維新に対するイメージは司馬遼太郎の小説に出てくるようなどちらかというと肯定的な世界じゃないかな。そうした明治観から少し離れて、日本の近代化を横から斜めから裏から見てみようという名著。歴史は政治家や軍人だけが作るものじゃない。
・映画『屍者の帝国』
原作からはかなり改変されているし、ラストなんて本当に何が起きているのか理解できなかった。だけど観終わってしばらく経ってから考えると、伊藤計劃が亡くなった段階で本来彼の手によって書かれるはずだった『屍者の帝国』というテキストは永遠に失われているし、受け継いだ円城塔も「荒唐無稽な軽い読み物」って評している以上、映画に対して激しく怒るのも空しい気がする。
勝手なことを言うと、伊藤計劃のプロットをもとに色々な作家が誰彼版『屍者の帝国』として作品化し、作家の数だけ『屍者の帝国』の物語が生まれてくると解釈も面白くなってくると思う。『伊藤計劃トリビュート』とか『屍者たちの帝国』みたいな試みよりもずっと面白いと思うのだけど、どうだろう。
『ハーモニー』は週末に観に行きます。
西村賢太の小説が面白かったので女を殴る小説を書きました。――「焼却炉行きiTunesカード」
「焼却炉行きiTunesカード」
財布は軽かった。背中にけたたましい機械音を受けながらパチンコ店を出ると日は既に落ちていて、十一月の秋風が財布の中身も相まって余計に寒く感じられるのだった。思えば、ふっと手持無沙汰になったのが運のつきだった。そこからものの数時間で入ったばかりのバイト代のほとんどが台に吸い込まれてゆく様を僕はただぼんやりと眺めることしかできなかった。
寒風に当てられたことで改めて現状を理解した僕は、己の運のなさと行動の軽薄さに対する怒りを振り払うように、財布にわずかに残された小銭を使いコンビニで缶チューハイを買うと、それを一気に呷った。すると胸の裡に胚胎した怒りはたちまちのうちに膨らみ、何ともやるせない気持ちで自宅を目指した。パチンコ店から僕の下宿するアパートは目と鼻の先だった。大学入学時に入居して今年で三年目になるいかにも学生向けの安アパートの部屋には明かりがついており、パチンコで大敗して荒みきった僕の心にぱっと小さな光が灯った。僕には大学一年生の時から交際している女性がいて、今年の春からはアパートの合鍵を渡しているのでこうして暇を見つけては男の一人暮らしに甲斐甲斐しく世話を焼きに来てくれるのだった。
「おかえりなさい。……もしかして酔ってる?」
「うん、まあ、ちょっとな」
僕はヤケクソになって酒を呷ったことなぞ言えず、モゴモゴと言葉を濁して自室にあがった。朝脱ぎっぱなしにしていた服は姿を消していて、そこら中に投げ棄てたゴミの類も綺麗さっぱり無くなっているのを見るに、どうやら彼女が片づけてくれたらしかった。僕は惨めな思いと彼女に対する有難い気持ちを抱きながら片付いた床に座り込んだ。彼女はエプロンを腰に巻いていて、こちらもまた綺麗に片付けられた台所からは食欲をそそる香りを漂わせている。
「今日は肉じゃが作ってあげるね。駄目だよ、インスタントのものばかり食べてちゃ。野菜も全然食べてないんでしょ? 冷蔵庫にサラダが入ってるから先に食べてて。肉じゃがはもう少し時間かかりそうなの」
冷蔵庫を開けると確かに皿に綺麗に盛りつけられたサラダが二皿並んでいた。レタスにカットしたトマト、そしてポテトサラダが丁寧に飾り付けられてあった。僕はそれを彼女の分も一緒に食卓に運び「お先に頂きます」と小さく告げるとモソモソと口に運んだ。彼女の言うとおり、生の野菜を口にするのは久しぶりのことだった。
肉じゃがはほどなくして運ばれてきた。じゃがいもは見るからに柔らかそうに煮込まれており、人参はご丁寧に桜の形に切り揃えてある。改めて二人で「頂きます」と告げると僕は真っ先に肉をつまみ口に運んだ。僕好みの濃い目の味に味付けられており、何もかも彼女に見透かされている感じがして背中にうすら寒いものを感じたが、手料理の温かみに僕の荒んだ心はすっかり懐柔されきっていた。
「そういえばあれどうなった?」
「あれって?」
「ライブのチケット。今日が発売日であなたが任せろって言うからお願いしたじゃない」
「あっ」
僕はこの時まで彼女との約束をすっかり忘れてしまっていたのだった。手持無沙汰だったのは何も用事があったわけではなく、約束の存在を忘れてしまったことで何となくそう感じてしまっただけのことだったのだ。
「もしかして忘れたの?」
「……すまん」
謝罪の弁を口にしたが、彼女の表情はみるみる不機嫌になってゆくのが分かった。
「私があのバンドがどれだけ好きでこのライブにどれだけ行きたかったか知ってるでしょ? チケットだって私が予約するからいいって言ったのにあなたがどうしても任せろって言うから任せたのに……もう絶対手に入らないよ、どうしてくれるの、信じられない……一体その時間何してたの」
まくし立てるように僕を非難する彼女のヒステリックな声を聞いているうちに、僕の心の中に収まりつつあった怒りがむくむくと再燃してきた。
「あああっ!!!そんなぎゃあぎゃあ騒ぐことねえだろたかがチケット一枚で人が死ぬわけでもあるまいしお前の分のチケット代も俺が出してやろうって考えてパチンコで増やそうとしたんだよ」
「パチンコ? あなた先月もうしないって誓ったわよね。バイト代を全部スって生活費を泣きついてきたこと忘れてないからね。それにね、あなたにチケット代を出してもらおうだなんてそんなこと願ってもないわよ。それでチケットが手に入らない、お金もないじゃ元も子もないじゃない。本当に学習しないのねあなたって、馬鹿じゃないの」
「チケット一枚で怒り狂ってるお前の方がよっぽど馬鹿みてえだよ。あんなチンポみてえな髪型の男の歌なんかにうつつを抜かしやがって」
僕は手にした箸を彼女に投げつけた。そして一瞬ひるむ彼女に迫り頬を思いきり叩いた。吹き飛んだ彼女がゴミ箱を倒し、その中身が部屋中に広がった。彼女は恨めしそうに僕を睨みつけたが、すぐに泣きじゃくり支離滅裂な言葉を繰り返した。
「パチンコ……意味ないじゃない……チケットどうして……最低……チケット返してよ……パチンコもうしないでよ……やめてよ……」
僕はカッとなって彼女を殴ってしまったことに対して急にばつが悪くなって、床に広がったゴミを拾い集め始めた。するとゴミの中に見覚えのないものが混ざっていることに気がついた。それは使用済みのiTunesカードで利用額は一万円とある。こんな高額なプリペイドカードを買った覚えはない。すると犯人は一人だ。
「なんだこれは」
依然泣きじゃくり続ける彼女にカードを投げつけるが彼女は何も答えない。僕の罪悪感は瞬時に怒りに置き換わり、彼女の髪を掴むと耳許で怒鳴りつけた。
「そういえばお前最近ずーっとスマホでゲームやってたよな。ははあ、これはそのゲームに課金したんだろう。そうなんだろ。人のパチンコにケチつけた手前、自分を棚にあげたことを認められねえんだろ。おい、何とか言ったらどうなんだ。お前も同じ穴の狢じゃねえか。そのくせ、人にはぎゃあぎゃあと喚きやがって根性のねじ曲がったギャンブル狂いの馬鹿女が。お前はそうしてゴミに埋もれてるのが一番お似合いなんだよ、これに懲りたら人の行動に口を出す前に自分の行動を改めるんだな」
僕は掴んでいた彼女の髪を乱暴に離すと彼女の頬にもう一発平手打ちを浴びせた。
「だってしょうがないじゃない……しょうがないじゃない……」
彼女はそう繰り返しながら手の中で使用済みのiTunesカードを握りしめていた。僕はベッドに腰掛け、半狂乱の彼女を見下ろした。ズボンの尻ポケットに仕舞った財布の薄さの感触を僕は感じた。
〈了〉
女を殴る就活生の小説を書きました――「それではあなたの自己PRをお願いします」
「それではあなたの自己PRをお願いします」
作:今野ぽた(@conpotachan_km)
「それではあなたの自己PRをお願いします」
僕の正面に座った男がにこやかに告げる。ストライプの半袖シャツから伸びる腕は程良く日に焼けて、筋肉もついている。僕をまっすぐ見据える瞳には曇り一つなく、人柄の良さを伺わせたが、僕にはそれがどこか後ろめたく、そして気味悪く映った。だけどそれを勘付かれてはいけないのだ。
「はい、私の強みは『優しさ』だと考えています。私は所属していたサークルの副会長を務めました。会長が事務的な仕事で追われることが多いので、私の役割はサークル内の人間関係を円滑に進めることだと考え、行動してまいりました。悩み事がある後輩がいれば相談に乗り、積極的に飲みに誘うなどしました。会長の仕事量が増えた際は、その仕事を手伝うこともしました。その結果、サークル内では『柳井さんは優しい』と評価され、活動も円滑に行うことができるようになりました」
何度も、何度も何度も何度も何度も繰り返した台詞がスラスラと口から流れ出てくる。笑顔で、元気よく、はきはきと。目の前の相手に少しでも悪印象を与えないように慎重に、そして自信を見せつけるように大胆に。
言葉を小気味よく畳みかければ畳みかけるほど、僕の頭の中にはすぅっと冷たい風が吹き抜ける。すると、黒のスーツを身にまとって口を動かし続ける自分自身の姿が、まるで他人のように感じられるのだった。サークルの副会長を務め、人間関係を円滑に進めた、優しい、『柳井さん』なんて、まるで存在しないかのように。いや、存在しないのだ。僕の口から溢れ出てくる『柳井さん』なる人間は、作りものに過ぎない。全部嘘なのだ。よく、一を百にすることは問題ないと耳にするが、僕のそれは一すら存在しないのだからタチが悪い。唯一合っているのは『柳井』という名字だけ。
目の前の男は僕の話を真剣そうに聞いている。この世のどこにも存在しない人間の話を、真剣そうに聞いている。途端、僕はこの男が哀れだと思った。そして、哀れむ自分自身が惨めになって、喉のあたりがきゅっと締め付けるような感覚に囚われた。僕の話を聞き終わった男が、僕に二、三の質問を投げかける。僕は喉の不快感を隠しながら、受け答えを続けた。
「面接は以上です。結果はメールにてお知らせいたします。それでは本日はありがとうございました」
●
アパートの前まで帰ってきたときには、日はだいぶ傾いていた。それでもなお、八月の暑さは就職活動をする学生にはあまりにも酷だった。ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外してもなお、暑さは容赦なく僕の体力を奪う。首筋を流れる汗が、ワイシャツの襟に染みる。脇と背中はぐっしょりと濡れている。僕は最後の気力を振り絞るように、アパートの階段を上る。二階に到着すると、鍵を取りだし、慣れた手つきで解錠した。玄関のドアを開けると、エアコンの冷気が僕を包みこんだ。汗だくになった身体には、少し寒すぎるくらいの温度だった。
廊下の向こうの扉が開き、すたすたと一人の女性が駆け寄ってくる。玄関のところで足を止めると、僕に優しい笑顔で「おかえり」と言った。僕は何だか後ろめたい気持ちに包まれながら、差し出された彼女の手にバッグの持ち手を握らせた。
「今日も暑かったでしょ」
「うん」
「お疲れのようだね」
彼女の、少しおどけたような口調に僕は、理不尽な怒りを覚えた。恨めしそうに彼女を睨み、何も言葉を返さず革靴を脱いで部屋に上がった。スーツをハンガーに掛け、クローゼットから着替えを取りだし、浴室へと向かう。彼女は何も言わず、僕の後ろをついてくる。脱衣所でワイシャツのボタンに手をかけたところで、僕は堪え切れなくなって彼女に「シャワー、浴びるんだけど」と言うと。彼女は「そう……」と言って脱衣所から出ていった。手にはまだ僕の鞄が握られていた。僕はワイシャツを乱雑に脱ぎ捨てると、浴室の扉を開いた。洗面器が扉にあたって、派手な音を立てた。
シャワーからあがると、彼女は退屈そうに頬杖をついてテレビを見つめていた。僕は彼女の隣に腰掛けた。なるほど、確かに退屈そうな番組だった。
「面接、どうだった?」
彼女は僕の顔を見つめながら訊ねた。
「問題なく受け答えしたけど、どう思われてるかなんて分からない」
「まあ、結果って学生には分からないもんね。何聞かれたの?」
「自己PRとそれを掘り下げる感じ」
「へえ、何て自己PRしたの?」
僕は昼間の面接の光景を嫌でも思い出した。座り心地の悪いパイプ椅子、面接官の日焼けした腕、すぅっと冷たくなる頭の中。サークルの副会長を務め、人間関係を円滑に進めた、優しい、『柳井さん』。ああ、そんな奴なんていないさ。そもそも、彼女は何を期待して、僕にそんな事を尋ねたのだろう。二年も付き合っていれば、そんな事訊く必要もないのではないか。途端、僕は彼女の質問の意図に悪意を覚えた。
「そんなこと言う必要ないだろ」
語気を強くして遮った僕に、彼女は露骨にむっとしてみせた。その仕草が、何とも腹立たしく見えた。
「必要あるとか、ないとか、そういう話じゃなくない?」
「うるさい!」
僕は反射的に彼女を怒鳴りつけた。彼女の顔に動揺が走る。しかし次の瞬間にはすぅっと彼女の顔から表情が消えていった。目から光が消え、口角は下がり、頬は蒼ざめていった。僕はまるでスローモーションでも見るようにその様子を眺めていた。言葉とは裏腹に、僕は冷ややかに彼女を見つめていた。自分自身の中で、自分が一致しない感覚。ああ、これは面接の時と同じ感覚だ。「それではあなたの自己PRをお願いします」。存在しない『柳井さん』を語っている時のような、まるで一段上から自分を見下ろしているような感覚。
僕の怒りは止まらなかった。彼女の体が吹き飛ぶ。頬を手で押さえている。手のひらに走る疼痛が彼女を殴ったことを物語っていた。僕は彼女の髪を掴むと壁に思いきり叩きつけた。何度も、何度も叩きつける。「それではあなたの自己PRをお願いします」。面接官の言葉が頭の中では響きつづけていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……悪気はなかったの……許して……痛い……」
彼女は傍にいるはずなのに、僕が今、まさに髪の毛をわしづかみにしているところなのに、それなのに彼女の声はどこか遠くに聞こえた。いつもそうだ。僕は怒りに火がつくとどうしても止めることができない。まるで自分が自分でなくなってしまったかのように彼女に暴力をふるってしまう。いや、これこそ僕の本当の姿なのだ。サークルの副会長を務め、人間関係を円滑に進めた、優しい、『柳井さん』という人格はどこにも存在しない。
「俺がどんな自己PRをしたかなんて関係ないだろ! そんなことも分からないのか。そうか、お前は俺を馬鹿にしているんだな。俺がどんな人間か知っているから、面接でどんな人間を演じているのか知りたくて仕方がないんだろう? なんて薄汚い女だ。労うふりをして近づいて、本心では人のことを苔にして。そんなに楽しいか? 何か言ったらどうなんだ!」
この世界に存在しているのは、彼女のTシャツの胸倉をつかみ、至近距離で罵声を放つ男だ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
僕は彼女のTシャツをさらに強く絞めあげた。生地が彼女の首にぐっと絞まるのが伝わる。彼女は息苦しそうに、なおも謝罪の言葉を吐き続けている。その態度が、僕の神経をさらに逆なでした。渾身の力で投げ飛ばすと、彼女は机の角に思いきり腰をぶつけ、そのまま顔を覆って泣きはじめた。Tシャツは裂け、乳房が顔を覗かせていた。
●
目を覚ますと僕はベッドの上にいた。服は身に着けておらず、シーツに汗染みが広がっていた。隣には裸の彼女が横たわっていた。時計を確認すると十一時を回っていた。今日の面接は十四時からなのでまだ余裕がある。
スマートフォンを確認すると求人情報のメールの中に、昨日の面接の結果が送られてきていた。「二次選考のお知らせ」というタイトルと共に、選考通過の旨が記されていた。僕は自嘲的な笑みを浮かべた。
「……おはよう」
彼女が目を覚ます。泣きはらした目と、首筋に残る痕が昨晩の出来事を物語っていた。僕は彼女と目を合わせることができず、小さな声で「おはよう」と言って髪を撫でた。ベッドから立ち上がりカーテンを開ける。今日は生憎の雨だった。どんよりとした光が伸び、部屋の奥のクローゼットを照らす。クリーニング済みの白いワイシャツがクローゼットの扉には掛けてあった。
クリーニング屋のタグのついたままのそれは、酷くよれて、くたびれていて――。
雨粒の影がまるで、墨汁のように白いワイシャツを汚しているように見えた。
(了)